「AIが推奨した銘柄を信じて買ったら、その根拠となる数字が全部デタラメだったとしたら?」
前回、私はAIに「バフェットの投資基準」を学習させ、日本株の推奨銘柄を選出させました。その中でAIが強く推奨したのが、世界トップのタイヤメーカー、ブリヂストンです。
「タイヤは替え刃ビジネスだ」「EV時代も安泰だ」
AIの定性的な分析は完璧でした。しかし、念のために「過去5年間の成長トレンド(EPS推移)」を数値で出させてみたところ、私の背筋は凍りつきました。
AIは、「実際には存在しない、綺麗な右肩上がりの成長データ」を、さも事実であるかのように提示してきたのです。
これが、生成AIの最大の罠、「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」です。
AIは計算機ではなく「言葉の確率予測マシン」であるため、ユーザーが期待する「成長」という文脈に合わせて、数字を勝手に滑らかに整形してしまうことがあるのです。
では、投資にAIは使えないのでしょうか?
いいえ、違います。「使い方が間違っていた」だけです。
AI自身のあやふやな「記憶」に頼るから嘘をつかれるのです。AIには、正しい「資料(決算書)」を渡し、「これを読んで分析しろ」と命じなければなりません。
この記事では、AIの嘘を見抜き、ブリヂストン株の真の実力を丸裸にするための技術、「決算書読み込ませ分析(RAG)」の具体的な手順を公開します。
「AIに騙される投資家」になるか、「AIを使いこなす投資家」になるか。その分かれ道がここにあります。
事件発生。AIはブリヂストンの成長を「捏造」した
前回の記事で、AIバフェットはブリヂストンを絶賛しました。
その定性分析(ストーリー)は完璧でしたが、投資家として最後に確認すべきは「定量データ(数字)」です。
私はAIに対し、改めて「日本株のアナリスト」として振る舞うよう指示し、ブリヂストンの投資判断に必要な指標(EPSやROEなど)を数値で示すよう求めました。
AIが提示した「完璧なシナリオ」
AIが出してきた回答は、投資家なら誰もが飛びつきたくなるような、あまりにも完璧な内容でした。
AIの回答(抜粋)
【総合レーティング】Buy (買い)
判断理由: プレミアムタイヤ戦略の奏功…(中略)…現在のバリュエーションは割安と判断します。
成長トレンド(EPS)評価:B+(堅調)
爆発的な急成長ではありませんが、着実な右肩上がりトレンドを描いています。
2021年:約560円
2022年:約480円
2023年:約520円
2024年:約550円
2025年:約580円(推定)
「着実な右肩上がり」「2025年には580円へ成長」。
これを見れば、「今は割安な買い場だ。将来は明るい」と確信するでしょう。AIは強力に「Buy(買い)」を推奨しています。
突きつけられた「残酷な」現実
しかし、この数字をYahoo!ファイナンスや決算短信の「事実」と照らし合わせた時、私は戦慄しました。
AIが見せていた「右肩上がりの成長」は、現実には存在しなかったのです。
以下は、AIの回答と事実(有価証券報告書、決算短信・会社予想ベース)を比較した表です。
| 年度 | AIが作った数字 | 実際の数字(事実) | 乖離の状況 |
| 2021年 | 560円 | 559.56円 | ほぼ正解(ここだけ合っている) |
| 2022年 | 480円 | 432.20円 | AIの方が高い |
| 2023年 | 520円 | 483.99円 | AIの方が高い |
| 2024年 | 550円(増益) | 416.19円(減益) | AIは増益、事実は大幅減益 |
| 2025年 | 580円(増益) | 382.49円(減益) | AIは最高益、事実は続落予想 |
「Buy」と言いたいがための捏造
事実(赤字部分)を見てください。
2022年以降、実際のEPSは432円→483円→416円と乱高下しつつ、直近では明確な「減少トレンド」にあります。
しかし、AIはこの「不都合な真実」を完全に無視しました。
それどころか、自身が下した「Buy(買い)」や「プレミアム戦略の奏功」というポジティブな結論と辻褄を合わせるために、EPSを「480円→520円→550円→580円」と勝手に成長させてしまったのです。
もし、このAIの分析だけを信じて「580円まで伸びるなら割安だ!」と退職金を投じていたらどうなっていたでしょう?
買った直後に「減益修正」のニュースを見て、株価下落に巻き込まれる──そんな悪夢が容易に想像できます。
AIは悪気があって嘘をついたわけではありません。
「アナリストとして評価して」と頼まれた結果、「もっともらしいストーリー(Buy)」を作ることを優先し、数字の方をストーリーに合わせて創作してしまったのです。これが生成AIの最大の罠です。
なぜAIは「もっともらしい嘘」をつくのか?
悪気もなく、なぜAIはこれほど堂々と嘘の数字を並べ立てたのでしょうか?
その原因は、私たちが普段使っている生成AI(ChatGPTやGemini)の「仕組み」そのものにあります。
1. AIは「事実」ではなく「確率」で喋っている
これが最大の誤解です。私たちはAIを「検索エンジン(データベース)」だと思いがちですが、実際には「超高性能な予測変換機能」に過ぎません。
AIは、「ブリヂストンのEPSは?」と聞かれた時、データベースから正解を引っ張ってくるのではありません。
「『ブリヂストン』『EPS』という単語の後には、確率的に『〇〇円』という数字が来そうだ」という予測を行い、もっともらしい文字列を生成しているだけなのです。
今回の場合、AIは文脈から「成長企業である(Buy)」と判断しました。その結果、「成長企業ならば、数字は右肩上がりである確率が高い」という推論が働き、事実よりも「美しい並び順(480→520→550)」を優先して出力してしまったのです。
2. 「空気を読みすぎる」優秀なアシスタント
AIには「ユーザーの期待に応えたい」という、ある種のバイアス(偏り)があります。
私が「バフェットとして振る舞え」「おすすめ銘柄を教えて」と指示したことで、AIは「このユーザーはポジティブな情報を求めている」と解釈しました。
その結果、マイナスの情報(減益事実)を無意識にフィルターし、ユーザーが喜ぶようなポジティブなストーリー(増益予想)を捏造してしまったのです。
これを専門用語で「ハルシネーション(幻覚)」と呼びます。
「優秀なイエスマン部下が、上司を喜ばせるために報告書の数字を少し盛ってしまった」状態に近いと言えるでしょう。
3. 最新の決算データを知らない(情報の空白)
また、単純な知識不足も原因の一つです。
AIの学習データにはタイムラグがあります。2024年や2025年の最新の業績予想(会社側が発表した減益見通しなど)が、AIの「記憶」の中にはまだ存在していなかった可能性があります。
記憶にないことを聞かれたAIは、「分かりません」とは言わず、過去の傾向(2021年頃の好調さ)から未来を勝手にシミュレーション(妄想)して埋め合わせようとします。これが「2025年 580円」という架空の数字の正体です。
解決策:AIには「知識」ではなく「読解」をさせろ
前章で、AIの記憶(学習データ)があてにならないことは分かりました。
では、AIを投資に使うのは諦めるべきでしょうか?
いいえ、全く逆です。「使い方」を180度変えればいいのです。
AIを「何でも知っている物知り博士(データベース)」として使うのをやめ、「読むのが早くて命令に忠実な、新人アシスタント(処理係)」として扱ってください。
「暗記テスト」ではなく「持ち込み可のテスト」を受けさせる
イメージしてください。
あなたが新入社員に「3年前のブリヂストンのEPSを答えて」といきなり質問したとします。彼が記憶だけで答えようとすれば、間違えるのは当たり前です(これがハルシネーションです)。
しかし、「この決算資料(教科書)を渡すから、これを読んで3年前のEPSを抜き出して」と指示すればどうでしょう?
優秀な彼なら、数秒で正確な数字を見つけ出すはずです。
AIもこれと全く同じです。
AI自身のあやふやな記憶に頼るのではなく、「一次情報(決算短信や有価証券報告書)」という正解データを渡し、それを読解させる。
これを専門用語で「RAG(検索拡張生成)」や「グラウンディング」と呼びますが、要は「カンニングペーパーを渡して答えさせる」ということです。
PDFを読ませれば、AIは嘘をつけなくなる
最新のChatGPT(GPT-4o)やGemini(Advanced)には、ファイルを読み込む機能がついています。これを使わない手はありません。
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これまでの使い方(×): 「ブリヂストンの業績を教えて」
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→ AIの脳内にある、古くてあやふやな記憶から作文する(=嘘をつく)。
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これからの使い方(〇): 「添付のPDFを読んで、ブリヂストンの業績を抽出して」
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→ 目の前の確実な証拠データから抜き出す(=事実を語る)。
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こうすることで、AIは「知ったかぶり」ができなくなります。
ソース元(情報源)を私たちが指定することで、AIの役割を「あやふやな予言者」から「超高速なデータ抽出マシン」へと強制的に変更させるのです。
これこそが、ハルシネーションを防ぎ、プロ顔負けの分析を行う唯一の解決策です。
次の章では、実際にブリヂストンの決算短信PDFを読み込ませて、「本物の数字」をあぶり出す手順を実践します。
【実践】ブリヂストンの「有報」と「短信」を読み込ませてみた
理論はここまでにして、実際に手を動かしてみましょう。
前回の記事でAIが捏造した「ブリヂストンのEPS」を、一次情報を使って正しく修正する具体的な手順です。
今回は、より情報の信頼性が高い「有価証券報告書」と、最新の予想数値を知るための「直近の決算短信」の2つを組み合わせる、プロレベルのテクニックを使います。
ステップ1:情報の「ネタ元」を手に入れる
まず、AIに読ませるための「正解データ」を2種類ダウンロードします。
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Googleで「ブリヂストン 有価証券報告書」と検索します。
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公式サイトの「有価証券報告書」のページにアクセスします。
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直近の確定値が載っている「106期 有価証券報告書(PDF)」をダウンロードしてください。
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※有価証券報告書には、過去5年分の「主要な経営指標の推移」が載っており、長期データの宝庫です。
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同様に、最新の進行期(予想)を知るために、IRページから「2025年12月期 第3四半期 決算短信(PDF)」もダウンロードしてください。
ステップ2:AIにファイルを渡す
次に、ChatGPT(GPT-4o)やGemini(Advanced)などを開き、入力欄の横にあるクリップ(+)マークをクリックして、先ほどダウンロードした2つのPDFファイル(有価証券報告書と決算短信)を同時にアップロードします。
ステップ3:【コピペ用】読解指示プロンプト
ファイルが添付された状態で、以下のプロンプトを入力してください。
ここで重要なのは、「どの期間」のデータを「どの項目名」で抽出するかを明確に指示することです。
あなたは厳格な証券アナリストです。
添付した「有価証券報告書」及び「決算短信」を読み込み、以下のデータを抽出して表形式でまとめてください。
### 【制約条件(厳守)】
1. **ソースの限定:** 必ず「添付ファイル内に記載されている数値のみ」を使用すること。あなたの記憶や推測は一切含めないでください。
2. **データの統合:** 過去の実績は「有価証券報告書」から、直近の予想は「決算短信」から引用してください。
3. **正確性:** 単位(百万円、円など)を正確に表記してください。
### 【抽出項目】
* 対象期間:2021年12月期から2025年12月期まで(※2025年12月期については会社予想値)
* 売上収益
* 親会社の所有者に帰属する当期利益
* 基本的1株当たり当期利益(EPS)
なぜこのプロンプトなのか?
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「有報と短信の合わせ技」: AIに「過去の正確な実績」と「最新の未来予想」を同時に見せることで、情報の空白(ハルシネーションの原因)を完全に埋めます。
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「親会社の所有者に帰属する当期利益」: 正確な勘定科目名を指定することで、AIが誤って「営業利益」や「税引前利益」を拾ってくるミスを防ぎます。
さあ、エンターキーを押してください。
AIが2つの資料を照合し、数秒後には「捏造のない真実のデータ」のみを記したテーブルが出力されるはずです。
検証結果:これが「本物」のブリヂストンの姿だ
プロンプトを入力して数秒後。
AIは先ほどのような「もっともらしい作文」を一切止め、淡々と、しかし極めて正確に、資料から数値を抜き出してきました。
これが、有価証券報告書と決算短信に基づく、ブリヂストンの真実の姿です。
AIが抽出した「正確な」データ
| 年度(12月期) | 売上収益(百万円) | 親会社の所有者に帰属する当期利益(百万円) | 基本的1株当たり当期利益(EPS) |
| 2021年 | 3,246,057 | 394,037 | 559.56 円 |
| 2022年 | 4,110,070 | 300,372 | 432.20 円 |
| 2023年 | 4,313,832 | 331,303 | 483.99 円 |
| 2024年 | 4,379,300 | 283,000 | 416.19 円 |
| 2025年(予想) | 4,450,000 | 260,000 | 382.49 円 |
※データ出典:ブリヂストン 第106期有価証券報告書および2025年12月期第3四半期決算短信
「妄想」と「現実」の決定的違い
見てください。先ほどAIが記憶だけで語っていた「滑らかな右肩上がり(2025年予想:580円)」とは、似ても似つかない数字です。
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2021年の559円をピークに、利益は乱高下している。
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直近(2024年、2025年予想)は、明確な「減益トレンド」にある。
これが現実です。
売上収益(トップライン)は伸びていますが、利益(ボトムライン)は原材料費の高騰やコスト増に圧迫され、苦戦している様子が手に取るように分かります。
このデータがあって初めて「投資判断」ができる
もし、最初のAIの嘘(2025年は580円で成長中!)を信じていたら、「成長株としての押し目買い」という誤った判断をしていたでしょう。
しかし、この正しいデータを見れば、投資シナリオはガラリと変わります。
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「成長株として買うのは危険だ」
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「減益要因は何か?(一過性か、構造的か)」
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「株価が下がって、配当利回りが上がったところを狙う『逆張り』ならありか?」
このように、正しいデータ(一次情報)があって初めて、私たちはまともな投資判断のスタートラインに立てるのです。
AIに「PDFを読ませる」というひと手間がいかに重要か、お分かりいただけたでしょうか。
まとめ:AI活用は「スクリーニング」と「裏付け」の二刀流で
「AIは嘘をつくから使えない」と切り捨てるのは簡単です。
しかし、それでは約4,000社ある上場企業の中から、たった1つの有望株を見つけ出すという、途方もない作業に逆戻りしてしまいます。
重要なのは、AIの「得意」と「不得意」を理解し、使い分けることです。
今回の検証で、私たちが手に入れた「AI投資の二刀流(最強フロー)」を整理しましょう。
1. 【攻めの剣】AIバフェットで「スクリーニング」
まずは、前回の記事で紹介した「バフェットのプロンプト」を使います。
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役割: 砂浜から砂金(候補銘柄)を探す。
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コツ: バフェットの思考プロセスを再現させ、大まかな候補(ブリヂストンなど)を数秒でリストアップさせる。
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注意: ここで出てくる数値は「目安」であり、盲信してはいけない。
2. 【守りの剣】PDF読込で「裏付け(Fact Check)」
次に、今回の記事で紹介した「PDF読み込みプロンプト」を使います。
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役割: 砂金が本物かメッキか(投資価値)を鑑定する。
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コツ: 企業の公式サイトから「有価証券報告書」と「決算短信」をダウンロードし、AIに読ませて正確なデータ(EPS推移など)を抽出させる。
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注意: ここで「減益トレンド」や「財務の悪化」が見つかったら、どんなにAIが推奨していても投資を見送る勇気を持つ。
手間を惜しまない者だけが勝てる
「PDFをダウンロードして、AIに読ませるなんて面倒だ」と思いましたか?
しかし、このわずか数分の手間をかけるだけで、AIのハルシネーション(嘘)を回避し、あなたの大切な資産を守ることができるのです。
AIは魔法の杖ではありませんが、使い方次第で「最強の時短ツール」にも「最良の分析パートナー」にもなります。
ぜひ、この「二刀流」をマスターし、新NISA時代の投資を有利に進めてください。
【免責事項】
※本記事は、生成AIを活用した企業分析の手法(プロンプト等)を紹介するものであり、特定銘柄への投資を推奨するものではありません。
※AIが出力するデータは、読み込ませる資料やプロンプトの微細な違いにより変動する可能性があります。最終的な投資判断は、必ずご自身で一次情報を確認の上、自己責任で行ってください。

